肩こりと肩甲骨のポジション
ワールドカップも終盤に差し掛かり、ベスト8が出揃いました。モロッコ対フランス戦では、モロッコの主力選手がハムストリングスを痛め、この大事な試合を欠場。モロッコ推しの私としては、とても残念なニュースでした。
日本代表の三笘選手も、ハムストリングの負傷によりワールドカップ出場を断念したと聞きます。一般的に、女性と比べると男性のほうが平均してハムストリングスが硬いと言われます。ただ、トップアスリートに起きるハムストリングスの故障は、単に「筋肉が硬いから」というだけでは説明できません。疲労の蓄積や、試合中に筋肉へ尋常ではない負荷がかかることも、大きな要因ではないかと思います。
ハムストリングを伸ばすストレッチは、ラジオ体操第一をはじめ、日常でもよく見かけます。ピラティスにも、ハムストリングスを伸ばすエクササイズはたくさんあります。
一方で、ピラティスにはハムストリングスを「伸ばす」だけでなく、「強化する」ためのエクササイズもあります。ここが、ピラティスが単なるストレッチとは異なる大きなポイントだと感じています。
「伸ばすのに、強化もするの?」と思われるかもしれません。私自身も、ピラティスを学ぶ前は、正直なんのことだかよくわかりませんでした。
簡単に言うと、ピラティスでは体のおもて側と裏側にある筋肉を、どのようにバランスよくコントロールするかを大切にします。おもて側の筋肉と裏側の筋肉。どちらか一方だけが強く、もう一方が弱い状態ではなく、両者が拮抗しながら働く関係性が理想とされています。
ハムストリングスの話から少し視点を広げると、ピラティスで大切にしているのは、ひとつの筋肉だけを伸ばすことではありません。体のおもて側と裏側、上半身と下半身、強く働きすぎている部分と、うまく働けていない部分。そのバランスを見ながら、体を整えていくことです。
その考え方は、肩こりにも通じます。
デスクワークが多い現代。肩こりに悩んでいる方は多いのではないでしょうか。かくいう私も、肩こりにはずいぶん悩まされてきたひとりです。マッサージにも、これまでかなりのお金を投じてきました。
しかしピラティスと出会い、「そもそも、なぜ肩はこるのだろう?」という疑問に、きちんと向き合うようになりました。結果、肩こりは劇的に減りました。もちろんゼロになったわけではありません。こるときは、やっぱりこります。それでも頻度はかなり少なくなり、肩こりからくる頭痛も減ったので、EVEの出番もほとんどなくなりました。
肩こりの要因を考えるうえで、ひとつのバロメーターになるのが「肩甲骨のポジション」です。そこで今回は、肩こりの要因のひとつとも言われる肩甲骨の位置について触れてみたいと思います。
肩甲骨は、胸郭に直接くっついている骨ではなく、鎖骨を介して体幹とつながっています。そのため、上下左右にとても自由に動くことができます。肩甲骨に自由度があるからこそ、私たちは腕を上げたり下げたり、開いたり閉じたりすることができます。
ただ、自由がきく肩甲骨は、ときに迷走します。本来あるべきポジションから離れ、そのまま戻ってこなくなってしまうのです。どこ行ったー、私の肩甲骨ー。
特に現代人はデスクワークが多いため、肩甲骨が「下制ポジション」、つまり本来あるべき位置よりも下がった状態になっていることが多いと言われています。
肩甲骨の上下の目安となる本来のポジションは、「第2胸椎」と「肩甲骨の上角」がおおよそ横並びにある状態です。下の図をご覧ください。

興味のある方はぜひ試してみてください。
「えっ、第2胸椎がどこかわからない?」
そうですよね。でも、簡単に見つける方法があります。
首を前に倒したとき、首の後ろにポコッと出る骨があります。そこが第7頚椎です。そこから下へ2つ目の出っ張りをたどったあたりが、第2胸椎の目安になります。
この第2胸椎が、肩甲骨の上角と比べて下にあるのか、横並びなのか、上にあるのか。そこを確認することで、肩甲骨が本来あるべきポジションに近いかどうかをチェックすることができます。ただし、肩甲骨の上角は自分では少し見つけにくい場所でもあります。細かく確認したい場合は、インストラクターや専門家に見てもらうのがおすすめです。
ここではまず、「肩甲骨は上がりすぎても、下がりすぎても、肩まわりの負担につながりやすい」というイメージを持っていただければ十分です。
本題に戻ります。
ではなぜ、デスクワークが多いと、肩甲骨が本来あるべきポジションよりも下がった状態、つまり「下制」しやすくなるのでしょうか。
その理由のひとつが、先ほど触れた「体のおもて側と裏側の筋肉のバランスの崩れ」です。
もう少し具体的に言うと、長時間のデスクワークでは、体の前側にある筋肉、特に胸まわりの筋肉が緊張し、短く固まりやすくなります。
一方で、背中側で肩甲骨を支えている筋肉は、うまく働きにくくなったり、伸ばされたまま弱くなったりすることがあります。
つまり、前側の筋肉に引っ張られ、背中側の筋肉がうまく支えきれなくなる。そうすると、肩甲骨は本来おさまりやすい位置から少しずつ離れていくのです。

肩甲骨をよいポジションに保つためには、僧帽筋や前鋸筋など、いくつかの筋肉が協力して働く必要があります。ところが、そのバランスが崩れると、肩甲骨は上がりすぎたり、外に開いたり、下がりすぎたりと、いわば迷子のような状態になってしまいます。
特に、肩甲骨を支える筋肉がうまく働かなくなると、肩甲骨は下がったポジションに入りやすくなります。これが、デスクワークが多い方に見られやすい「肩甲骨の下制」につながることがあります。

では、ピラティスではどう考えるのでしょうか。
ピラティス的には、「前側で短く固まりやすい筋肉をゆるめて伸ばし、後ろ側でうまく働きにくくなっている筋肉を目覚めさせ、強化していく」という考え方になります。
ただ伸ばすだけでも、ただ鍛えるだけでもありません。必要なところは伸ばし、必要なところは働かせる。そのバランスを取り戻していくことが大切なのです。
そして、これらの問題に対して効果的にアプローチするために使われるのが、リフォーマーやキャデラックといったピラティス専用のマシンとなるわけです。
それぞれのマシンの特徴については、また別の機会に詳しくお話しするとして、今回はこのあたりで終わりにしたいと思います。

